布や織り関連の道具類は朽ちやすいので、石器や土器のようには残っていません。何かひとつ発見があると、何万年という単位で事実らしいと考えられることが動きますので、確かなことは分からないのですが、人類が衣服を着出したのが今からおよそ17万年前(6〜7万年前という説もある)、農耕・定住とともに織り機が発明されたのが今からおよそ1万2千年前、中国で葛の衣が使われたのが分かっているのがおよそ2000年以上前、日本で出土している最古の葛布は古墳時代1500〜1700年以上前、と、今のところは、そういうことになっているようです。(間違いがあったらごめんなさい)
中で特に「織り機の発明」は本当に大発明だったのでしょう。手織りは手仕事だと何の疑問も持たずに漠然と考えていましたが,織り機は機械でそれ以前の「手仕事」とは明確に分かれるので、「手仕事」という名称は相対的に認識されるものであるという事に気づきます。また、布の構造や作り方は、人力であろうと電力であろうと、基本的な構造は発明された時〜一万年以上前〜と変わっていませんので、人類は、一万年以上も、同じことをし続けていることになります。技術は、時代とともに進歩・進化し変わると思いますが、織りの技術は、ずっと変わらない。「ものを噛む」とか「歩く、走る」=人体の構造レベルの変わらなさに思えます。いや、位置付けとしては「食物に火を通して食べる」と同じなのかもしれません。文明の根幹です。
そのうち3Dプリンタ的なもので衣服が作られるのが主流になるなどの変化がもしかしたらあるのかもしれませんが、「織る」技術を人類は絶対に手放さないのではないかと思えます。何しろ、一万年以上前からずっと同じことをやり続けているのですから。
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さて、以上は2023年に月形で開催した個展の際に、自分の歴史とともにこれまでの人類の「織り」歴史の流れを、手元の文献で調べながら俯瞰してみた時のものです。私は時系列にものを考えたり俯瞰したりするのがとても苦手なので、手描きでその流れを紙に書き、それを少し整えたものを会場に展示しました。その掲示を元に、ご来場の方々と色々お話しすることもできました。私以外の皆さんが布や衣服、着物について、どう考えているか?を知ることは、その時の個展開催の目的の一つでもありましたので、とても興味深くお話を伺いました。
古代における織り機の発明に匹敵する(だろう)現代のテクノロジーの大飛躍の真っ只中にあって、今後何をどういう方向で作っていくのか?人類の営みと手織りの歴史を概観しながら皆様とお話しできたことは、とても貴重な体験となりました。
2025年現在、あれからたったの2年ですが、テクノロジーの進化のスピードがものすごく早いことが当たり前の世の中になりました。2023年当時が、もはや大昔のように感じる中、身近に自生する葛から糸を取り布を織ること、その行為と継承が、ますます尊いと感じるようになりました。