現在織っているのは、自宅敷地内のノブドウの、夏に伸び過ぎる蔓と葉を剪定したもので染めた糸を経緯(タテヨコ)に主に用い、秋に青〜赤のグラデーションに色づく実の色合いを微かに忍ばせる八寸帯地。タイトルを「野葡萄」としようと思っていたが、ノブドウについて調べていたら「紫葛」という表記を見つけた(※)。「葛」は「くず」ではなく「かづら」で蔓性の植物全般を指す言葉でもあったようなので、単に「紫色の蔓性植物」という意味なのかもしれなくて、すると「ムラサキクズ」ではなく「ムラサキカヅラ」と読む可能性が高いかもしれない。
ムラサキカヅラ。
綺麗で良い響きである。タイトルは「紫葛」になるかもしれない。
日本の他の地域では「ウマブドウ」と呼び主に肝臓に効く薬として使用されているようだ。私は実を収穫して焼酎に漬けノブドウチンキを作り、打撲や炎症を起こしている場合などに患部に貼り付けて使っている。痛みが良く引く。キチンと洗うなど丁寧に作れば飲用も出来るようだが私は飲んだことはない。
庭の植物のほとんどを鉄媒染で染めているのは、媒染剤を自作しやすいからというのと、古くから黒染めまたは灰色系の染料として用いられてきた経緯がある植物が多いこと、などが理由だが、何より個人的な理由としては、同じグレーでも植物によってさまざまなグレーが出る、その微妙な色の違いを楽しみたいからだ。また、それらのグレーは生成りや他の鮮やかな色との相性が大変よく、お互いがお互いを引き立ててくれる。因みにノブドウ染めに関しては古い歴史があると見聞きしたことはないが、薬になる植物なので染料として使いたいと思った。他の媒染剤でどのような色になるのか?はまだ試したことがない。
さて次回の個展ではヌルデ、ノブドウ、サンショウ、クリのグレーを展示する予定だが、他にこれまでに制作したものではゲンノショウコ 、イタヤカエデ、メマツヨイグサ、などがある。ノブドウのグレーは淡いながらもやや緑がかり、イタヤカエデの色の系統に少し似ている。
(※)
「渋江長伯一行の蝦夷植物採薬紀行『東蝦夷物産志』を読む」、北方植物資料研究会編著、クスリ凸凹旅行舎、2024年、p108-109
アイヌ語では hat-punkar(ハップンカラ、ハッツブンガラ)ノブドウとヤマブドウの両方を指すと考えられると書かれてある。ノブドウはそもそも北海道に生えていた植物なのかどうか、分からないが、分布には偏りがあるのだそうだ。